2019.6.14

(過去記事)知っておきたい税金の話11 「相続時精算課税制度」の贈与Ⅱ

※この記事は、平成24年に「北近畿経済新聞」に掲載されたものです。現在の状況とは異なりますので、ご留意ください。

 

前回、概要のご説明をしました相続時精算課税の特徴は、2,500万円までの財産であれば贈与税の負担がなく贈与でき、また2,500万円を超えた場合でも一律20%の贈与税で済みますので、暦年課税の贈与に比べますと少ない税金負担で高額な贈与ができる点にあります。
例えば、2,500万円の財産を一度に贈与しますと、暦年課税の場合は(2,500万円―110万円)×50%―225万円=970万円の贈与税になりますが、精算課税であれば贈与税の負担はありません。しかし、精算課税により贈与した財産は相続時に相続財産に持ち戻して相続税を計算するために、相続税の節税という視点からは必ずしも有効であるとは言えません。つまり、この制度を選択するかどうかのポイントの一つは、相続税がかかるか、かからないかにより異なってきます。

 

【1】相続税がかからない場合
現在の相続税の基礎控除額は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」となっており、被相続人の相続財産がこの基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。そこで精算課税を選択して贈与した財産を相続時に持ち戻しても相続税がかからないのであれば、2,500万円までは税金負担を気にせずに財産を思うように贈与できます。2,500万円までの贈与であれば一度に贈与しても、複数年に渡って贈与しても贈与税はかかりません。ただし、相続税の基礎控除額が近い将来引き下げになる可能性もありますので、今後の税制改正には十分ご留意ください。

 

【2】相続税がかかる場合
相続税がかかる方の場合には、精算課税により贈与をしても相続時には相続財産に持ち戻して相続税を計算することになるために、暦年課税の贈与のように相続財産を減らす効果はあまりありません。しかし、以下のような方法で精算課税を活用することができれば節税になることもあります。
(1)収入を生む財産を贈与する
例えば、アパートやマンションなどの賃料収入がある物件を精算課税により贈与することで、その賃料収入を子供に移すことができ、自分自身の財産の増加をその分抑えることができます。その結果、相続財産の増加を抑える効果があります。
(2)将来値上がりする可能性の高い財産を贈与する
これは、精算課税を選択した場合の相続税の計算の仕組みにより言えることですが、例えば、精算課税により3,000万円で贈与をした財産が、相続時に5,000万円の評価に値上がりしていた場合でも、贈与時の3,000万円で相続財産に持ち戻すことになります。その結果、差額の2,000万円分に対する相続税の節税ができたことになります。しかし逆に、相続時に1,800万円の評価に値下がりしていた場合は、その場合も贈与時の3,000万円で相続財産に持ち戻しますので、差額の1,200万円分に対する相続税が増加したことになります。このように、確実に値上がりする財産がどのような財産であるのかを見極める必要があります。贈与財産の選択は慎重にご検討ください。
(3)遺言を先取りする効果
節税の視点とは別になりますが、例えば、自社株や事業用不動産など高額な財産を後継者に確実に渡したい場合に、精算課税贈与により生前に移すことも可能で、結果として遺言と同じ効果が生前に実現できる場合があります。